虚空の徒花

虚空の徒花

母上は、いつも見知らぬひとを連れ込んでは倒錯した色事に興じていた。
父上は、それを知りながら興味など無いと言うように母上を構う事はなかった。

――だから、結婚には夢も興味もなかった。




色を司る母は、絶世の美女と讃えられた実力者だった。

その美貌と色香をもって、数多の実力者を色に狂わせたという。父もその一人にすぎないのだろうか。
お陰で種違いの兄弟はかなり多かったが、ティアマットの血を引くのは私だけだった。この血は、たった一人の子にだけ受け継がれるものらしく…その子は、幼少から徹底的に教育を施されて育つ。

“他と深く関わるな”

“王以外に興味を持つな”

“他から理解されることを望むな”

“精神を乱すモノは徹底的に排除せよ”

“妻は血を存続させる道具。愛など必要ない”

ただ、私はそれに違和感を覚えていて…友人とよく一緒に過ごす事があった。家にいる大人たちより、ずっと興味深く面白かったからだ。


昔に仲良くしていた友人がいた。もう、名前すら思い出せないが…幼少の頃は良く遊び、とても楽しかったのを覚えている。

「   、次は何をしようか?」

そうして手を握って、走り出そうとした瞬間…目の前には父上がいて、その子を…


――咎めるなら、私を咎めればいいのに。


一瞬、激しい風が吹いて…思わず腕で顔を覆った。
風が止み、鼻をつく鉄の様な臭いに思わず横を見ると…まるで糸切れた人形のように、体を切り刻まれ首が千切れたそれは…赤い水溜まりを作って床に転がっていた。
そこからの記憶は酷く客観的で、鮮明に覚えていた。あれは見せしめだ。私が…他と交わらないための。


空虚であることこそ美徳

真を求める事、即ち愚考


操り人形のような、感情を持つ事を否とされる生活に…いつしか、周りへの興味すら失われていった。

それ以来…特に他と関わりたいとは思わなくなっていたのに…
また、ひとに惹かれた。


私が戦場に行くようになってから、父は母との色事に溺れ…無様な死に様を晒した。
母は断ち切れた鎖の先を振り返る事なく、その行方を眩ませた。当主の座は自然と自分のものになり、若かった私は家を牛耳る親族たちの言うがまま…王に忠誠を誓い、戦場に身を置き、戦う事だけを考えていた。


――それなのに。
戦場で、気の合う仲間たちと出会い…不器用ながらもそれなりに楽しく過ごすようになっていった。






[Fin]

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ちょっと違うキャラの話ですが、魔界モノでございます(´ω`)
四天王の長男アデルの父親の話だったり(笑)
ここの家系も色々ありまして…なかなか全部説明しきらんなぁ〜・・
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