■交流作品■

Illegal move

1.

――唐突にそれは起こった。

「好き、です。あなたのコト。」

眩暈がした――勿論、悪い意味で。


人間界で折角の余暇を過ごしていたのだが、そんなことを言う同族に会って嫌気がさし魔界に蜻蛉返りした。
「おや、アスター。出て行くんじゃなかったのかい?」
「………放っといてくれ。」
「まあ、好きにおし。」
好き、という単語に一瞬動揺したが振り切るように自室へ戻った。
「ごしゅじんさまぁ。アッサムとフィナンシェをご用意致しました〜」
「ん。ローズヒップ、悪いがコレクションルームに運んでくれ。」
今は一人になりたい。
そう言うなり、人間風に着こなしたスーツを脱ぎ捨て首元を寛げてから、コレクションルームへの扉を開きソファになだれ込んだ。
使い魔のローズヒップは、何も言わずにティーセットとお菓子を部屋の中央に置かれたテーブルに並べ、静かに一礼して退室した。それを横目に確認してから、アスターは大きな溜息をつく。
「……何なんだ、一体。」
眩しくて柔らかそうな金髪に、熟れたさくらんぼのように潤んだ赤い瞳…頭から離れない程美しい見た目とは裏腹に、悪戯っぽく微笑んでのあの台詞。
もう考えるのをやめたい…。
「名前くらい聞いてやればよかtt…いやいやいやいや」
昨日の今日で“結婚”という文字が頭に浮かんで消えず、ダラダラと脂汗が噴き出して気分が悪くなる。
「………………ローズヒップ。チェスをする…相手をしろ。」
とにかく無心になりたくて、先程出て行った使い魔を呼び付けてチェスの用意をさせた。
Copyright (c) 2013 alice* All rights reserved.
 

powered by HTML DWARF