■交流作品■

peridot...

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 オペラと一緒に暮らし始めて1年くらい経った頃、あいつもオレも「誰かと一緒に暮らす」ことに慣れてきたなと実感することが多くなってきた。
 基本的にテキトーだったりするオレは家事や諸々をやらせてもらえなくなったし…これは多分あいつの遠慮とかそういうのも感じるんだけど、やるって言われて断るのは難しくてついそのままになっていた。
 取りあえずこれといって変わりなく繰り返される日常を楽しんではいたんだけど、最近ちょっと気になることができて悶々としてたりする。

――あいつ…オペラの元気がない。

 いつも心配になるぐらい明るく振舞ってたのに、ここ数日は溜息とかついて暗い顔をしていることが増えた気がする。

「なぁ。最近元気ないけど、何かあったのか?」

 こういうとき、気の利いた言葉の一つでも知ってれば良かったんだけど…日ごろの不勉強がたたって、思ったことを口にするのがやっとだった。

「…え‥?あ、何でもないんです。」

 いや、明らかにそれは何かある顔だろ。
 表情と言っていることが噛みあってない…何というか少し不安になるその表情に、こう、胸の辺りがぎゅーっと苦しくなるような感じがして思わず手が出る。けど、その手をどうしていいか一瞬迷って、結局どうしようもなくてまた元の位置に引っ込めてしまった。

「そ、そっか。」

 凄く気まずい空気に居た堪れなくなって何となくソワソワし始めたあたりで、オペラが突然小さな、搾り出すような声で喋り始めたから、慌ててそちらを向いてその話に耳を傾けた。

「……私は、ヴィアナさんの事を全て信じているわけではないんです。怖くて、怖くて、逃げたくなる時もあります…。でも、ヴィアナさんの側にいたい気持ちも強いんです…。」

 突然の告白に心拍数が跳ね上がる。
 でも何を言っていいか解らなくて、うんうんと頷きながらただ聞いてやるしかできなかった。

「ヴィアナさんが女性のお客さんとお話ししている姿を見て、すごく苦しかった…。嫉妬したんです。ヴィアナさんのこと信じていないくせに。ヴィアナさんの笑顔がほかの女性に向けられることがつらかった…!!苦しかったんです。そんな自分が醜くて、汚くて…!!私は、ヴィアナさんの側にいる資格なんてないんです…ッ」

 スゴく冷静にその言葉を聞いている自分がいて少し驚いた。そう思ってるのが自分だけじゃないんだっていう安心感に近いような。

「…オレもそういう時ある。お前が客と話すのがイヤになったりとか、そういうの。」

「多分、お前のことが好き…なんだと思う。信じてって言うのは何か違うかもしんないけど…」

 多分だとか凄くみっともないな、とか言った後で思って後悔する。
 罪悪感半分、言ってしまった弱み半分で、オペラの手の甲にキスをする。自分の中ではとても思い切った行動だった。

 けれど、オペラからの一言で思わず怯んでしまう。

「そんなんじゃイヤです、ちゃんとキスしてください…っ」

 ちゃんと、って何を指しているのか。
 少し考えつつ躊躇っていると、捲し立てるようにオペラが言う。

「手に入りもしない幸せに期待するくらいなら、きっとあの市場にいたままのほうがよかった…ッ」

「っ…」

 言われた事に対して思考が追いつかない…ただ、すごく悲しくてショックで、もうどうしていいか解らなくなってその場を離れた。勢いに任せて行き着いた先は、魔界。気付けばアデルの部屋の前に立ち尽くしていた。


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