■交流作品■

遭遇

里の人々が言うには、近頃人里に下りてきて悪戯をする妖怪がいるという。




【遭遇】







幾日も降り続く雨で、山に満ちた様々な匂いや邪気が流されていく。
長雨によって山に清浄な気が取り戻されつつあった頃、黎螢は自らの庵の近くで明らかに異質な匂いを感じてそちらへ向かった。

この山でも三指に入るであろう高齢な木の辺りに来ると、匂いが強くなってくる。その近辺にあたりを付けて捜索を始めると、根元のウロで何かが小さく動いたように見え黎螢はそちらの方に努めて優しく呼びかけた。

「…誰かいるのですか?」

「……〜、‥」

酷く弱々しい、呻きという表現が最も近い声が聞こえたすぐ後に、何かが落ちるような…地面に叩きつけられたような音がして黎螢は慌ててウロの中を覗き込んだ。

――天狗?鳥?
一体何であろうか…その正体はどうであれ、まだ年若いように見える妖怪がそこで気を失っていた。
もしかして里を荒らしていた妖怪だろうか?それにしては酷く衰弱して血の気を失ってしまった肌には、細かな傷や痣が点在している。何か良からぬことに巻き込まれてしまったのかと心配になった黎螢は、そのまま放っておけずに庵まで連れて帰ることにした。


無駄に広い作りの家屋はこういう時に少々難儀する。
体が冷え切ってしまった客人の為に部屋を暖めようにも気が遠くなるほど時間がかかってしまう。

濡れた着物を脱がせ、体を乾いた布で拭いてやり、彼の体には少し大きいが自分の着物を着せて布団に寝かせた。しかし真っ青なままの顔色や体の震えも収まる気配はなく、黎螢は左手を口元にあてて何かできることはないかと少し考える。
すると何かを思いついたのか徐に掛け布団の上にかぶせていた厚手の着物を自らの肩に羽織り、片膝を立て布団に寝かせていた妖怪を腕に抱き力なくしなだれた体の支えにし、できるだけ体が密着するように抱き寄せた。そして羽織っていた着物を彼にかけて肩や頬をやんわりと摩り始めた。



ついウトウトし始めては目を覚まして、というのを一体何度繰り返したか。そうして覚醒する度に腕の中にいる客人…というよりは病人の顔色を観察しては、徐々に良くなっていくのを確かめて安堵が広がる。夜が明けるころには目を覚ましてくれるだろうか。
黎螢はそんなようなことを思って、今度はとうとう重く落ちた瞼は朝まで開くことがなかった。



「ん…」

目を覚ましてから少しの間は、情報を整理するのに時間を要する。要は寝ぼけている頭を叩き起こすのに時間がかかるのだ。
そういえば昨日は病人を看病していて、それで…それで、病人はどうなった?

はたと拾った妖怪のことに思い至り腕を見るが、何もないどころか彼の姿自体が見当たらない。
ただそこにいたという痕跡は残っていて、脱がせて乾かしていた着物が無くなっている代わりに、着せていたものが無造作に脱ぎ捨てられていたのできっと目を覚まして根城に帰ったのかもしれない。

――具合が良くなったならそれでいい。元気ならまたどこかで会えるかもしれない。

黎螢はそう思い至ってくすっと笑うと、ぐっと両腕を挙げて伸びをする。そしてそのまま傍に敷いたままだった布団になだれ込み、二度寝をするつもりでもう一度目を閉じた。






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あしらさん【@ashira6400】宅の火景くんと、うちの黎螢を出会わせてみたーっていうお話です。お借りありがとうございました!!


すこぶる短いですけど、夕方の雨の話からエンカウトっぽいものを先に考え付いたので投げておきます!

alice*
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