雪と野良猫

――…王を討ってから少し経った頃。季節は厳しい冬へと移ろう。

白く降り積もる雪の絨毯を踏み締めて…屋敷へと帰る途中、ぼんやりと空を眺めて雪に埋もれて…少し途方に暮れた様な顔の野良猫に出会った。












《雪と野良猫》












誰か来た。誰も探しにこない筈なのに…そいつは僕に言った…『おいで』と。

「だれ?」

挑戦的な金色の瞳が、声の主を見上げた。その子は雪の積もった石畳にずっと座っていたのか、肩や頭に雪を積もらせて…その子の周りだけ石畳が露出している状態だった。

「私はアマデウス…。キミの名前は?」

魔族には珍しい明るい碧の瞳を細めて笑う。人を安心させる微笑み。
薄桃色の髪の間から天を指し聳える、黒く立派な角は大人の証。アマデウス侯と言えば、先の王討伐が最も有名だが…過去、王候補としても名が上がる程の実力ある貴族だった。

「…ヴィアナ・イリヤット…」

その名を口にするのも汚らわしい…そんな顔で名を呟いたヴィアナは、アマデウスに向けていた視線を逸らした。半端に巻いた幼い角は力の証。
イリヤット家と言えば…魔界一美しい一族として名高い。…が、この野良猫が本当にその名家の子か?それにしては酷くみすぼらしい格好だが…。

「……イリヤット家のご子息とお見受けするが…何故こんなとこ…」

「いらないから。」

アマデウスの言葉を遮る様に呟いたのは、まるで自分を物であるかのような…自虐的な言葉であった。アマデウスは溜息をついて少し考えると、イリヤット家の血とも呼ばれる「愛欲」「色欲」がヴィアナに感じられないのを見て…何かを決めた様に笑った。

「…私のところに来ないかい?」

屋敷は大きいし、広いし、私ともう2人が住んでいるだけだから、と微笑んで手を差し延べた。ヴィアナはビクッとその手に驚いて身を竦めると、じっとその手を見つめて呟いた。

「…探してくれる?」

いなくなっても、見つかるまで探してくれる?お手伝いや使い魔じゃなくて、アマデウス自身が僕を求めて探してくれるなら、僕はアンタのとこに行ってやってもいいよ。
戸惑うように揺れる金色の瞳。愛されたい…誰でも良いからそれを頂戴。飢えて荒んだ心が見え隠れしていた。

「隠れんぼは嫌いじゃないよ…。でも…年寄りだから、手加減はしておくれ。」

アマデウスは、差し出した手でヴィアナの藍色の髪を撫でて…微笑んだ。

「…やだ。」

手加減なんて意味が無い。本気で僕を…探して、求めて、愛して……



後にイリヤット侯にお目通りした時、ヴィアナの生い立ちを知って驚いた。
ヴィアナは既に大人であってもおかしくない年齢であること、双子の姉と成長の差が歴然としていること、出来損ないであること――…開花を拒んでいること。

(大変な野良猫を拾ってしまった…)

飢えの塊であるヴィアナと、どう向き合うか…なんて、考えただけで馬鹿らしい。そんなもの…向き合ってから考えれば良い。原石磨きは、始まったばかりだから。


真っ白な石畳に足跡二つ。屋敷まで続く道を、ゆっくり歩いて帰ろう。二人で――…











[Fin]




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イラストのオリジナルジャンルに置いている、ヴィアナとアマデウスの出会いの話。
かなり前の作品だったりします(笑)

魔界の子たちはみんなどこか…な、カンジ(´ω`)
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